デビュー25周年の明和電機 社長にインタビュー!情報化社会のモノづくりとは?

IMG_3375

青い作業着を着用し、おかしなマシーンでライブパフォーマンスや展覧会を開催するアートユニット、「明和電機」。今年でデビュー25周年を迎える明和電機の活動は国内外で展開され、さらにおもちゃの製作も手掛けています。
 
今回は、アーティスト明和電機の”代表取締役社長”こと土佐 信道(とさ のぶみち)さんに、モノづくりに関するインタビューをさせていただきました。デジタル技術が発達した現代における”モノ”が持つ意味について、貴重なお話を伺うことができました。

 

不可解なイメージから生まれるモノ

 
⇒ 明和電機では独創的な製品を数多く発表しています。それらのアイディアはどのようにして生まれるのでしょうか?
 
アイディアが生まれる場所は、喫茶店ですね。アトリエはモノを作る場所で、考える場所ではないという認識なんです。アイディアが出てくるプロセスは、製品によって異なります。世の中にある技術からひらめくこともあれば、芸術的インスピレーションからイメージが降りてくることもある。芸術的インスピレーションというのは、シュルレアリスムに近いですね。深層心理にある不可解なイメージを表現する感じです。
 
⇒ 不可解なイメージを基に製品を作るというのは、独特ですよね。
 
深層心理を表現することは、芸術家は当たり前にやっていることなんです。でもそれは、昔から権力者に利用されがちで。昔の王様は国を治めるために芸術家に神様を描かせましたし、資本主義以降は企業が広告という形で利用しています。明和電機の場合は、芸術家も、芸術家に指示する王様も、全て一人でやっているんです。自分で不可解なイメージを取り出して、自分で大衆化している。その意味で、明和電機は特殊かもしれません。

IMG_3367

明和電機さんのアトリエ

 
⇒ モノづくりにおいて、大事にされていることはありますか?
 
家が電機加工工場だったので、当たり前にモノを作る環境で育ったんです。「無ければ作ればいい」という思考で、何でも作ることができる気がしています。この感覚をベースとしたうえで、「見てわかる、直せる」ということをモノづくりのポイントにしています。
 
最近は情報寄りのクリエイションが多いですよね。スマホを始めとして、デジタル系はテクノロジーがブラックボックス化して、仕組みがどうなっているのか分からない。直せないんです。明和電機のモノは、仕組みは見れば分かるし、自分で修理することができる。結果としてローテクになったりするんですが、そこに面白さを感じるんです。
 
芸術的な面で言えば、彫刻的にモノづくりを行っています。形とか、質感を大事にしているんです。いわゆるフェティッシュ、つまりエロスですよね。人間は人に対してムラムラしますが、物質の艶とかに対してもエロさを感じると思うんです。だから、金属を切る時なんかでも、エロさが出てるかどうかを大事にしてますね。
 

情報化社会になっても変わらないモノ

 
⇒ デジタルのお話が出ましたが、情報化社会におけるモノの重要性について、どのように考えていらっしゃいますか?
 
僕らの世代は、”騙された世代”なんです。最初、音楽はレコードだと聞いて買いまくっていたら、CDになり、LDとかMDとか色々出てきて、最後はクラウドかよ!費やしてきたお金は!?(笑)と。でも音楽はコンテンツが重要なのであって、メディアは何だってよかったんです。究極的には耳の中で鳴ってくれればいい。絶対にテクノロジーはそっちへ進むので、仕方ない。
 
一方で、人間のフィジカルは絶対に変わらないんです。例えば、シンセサイザーの核となる音を発生させる部分は、どんどん小さくなっていて、今じゃ小指の先に載るぐらいになっています。でも、だからといって人間も小さくなることはできない。ピアノの鍵盤の大きさは変えようがないし、ギターのネックの長さは変えられません。だから楽器において、いわゆるインターフェイスの部分を作っていれば、食いっぱぐれがないはずなんです。明和電機が作っている道具も、体につけるモノだったり、ウェアラブルな面白さを楽しんでもらう、という部分があります。デジタル化が進んでも、こういうエンターテイメントは残るんじゃないかな、と思っています。
 
最近、「コンテンツ」と「ツール」の話をよくするんです。他の動物とは違って、人間はモノを作る。じゃあ何を作るかというと、ひとつは空想。頭の中で空想したことを外へ出して、それが物語や図面、音楽になる。これが「コンテンツ」です。「ツール」というのは、斧だったり、あると便利な道具。人間が作ってきたものを大きく分けると、「コンテンツ」と「ツール」の2種類なんです。
 
音楽の話で言うと、僕がデビューした当時はまだバブルの余韻があって、CDが100万枚売れる時代だった。業界はめちゃめちゃ儲かってウハウハだったんですけど、でもそれはコンテンツではなくて、ツールが売れていたんです。CDというプラスチックが売れていただけ。その後、音楽はコピーして持ち歩けるようになって、ツールを作る会社は売れなくなってしまった。ツールからコンテンツがはぎとられてしまったんです。
 
その一方で、おもちゃもツールとコンテンツが同居しているんですが、これは引き離すことができない。音が出る楽しみというコンテンツと、機能というツールがガッチリくっついてるんですね。それで、おもちゃなら大丈夫だろうと思っていたら…「魚(な)コード」や「オタマトーン」(※)がコピーされる問題が出てきた(笑)。昔から3Dプリンター的なものはあったんですが、アホみたいに高かったんです。デジタル技術の進歩で価格が安くなって、コピーが容易になってきている。僕らからすると、簡単にコピーできるようになった時代に、どう適応するかなあ、というのがありますね。
 

コピーされて気付いた”面白さ”

 
⇒ 音楽家や芸術家にとって、自分の作品をどう守っていくのかは重要な問題ですよね。
 
時代の先端にいるのは音楽だと思っていて。音楽はクリエイションのスピードが早いんです。震災の時もミュージシャンのアクションが一番早かった。彼らは思いを歌って、録音して、流せばいいんですが、僕らがモノを作ろうとすると3カ月はかかります。ミュージシャンはクリエイションの最先端にいるからこそ、新たな問題を最初に被るんですね。デジタルの問題も最初に被ったのはミュージシャンでしたし。
 
でも、メリットも出てきてると思いますね。自分で世界配信できるとか、レコーディングの簡易さとか。あとはSNS。「魚コード」事件の時に実感しました。普通、コピー商品を売られたら訴えればいいんですけど、クリエイターだから「面白くない」と思ってしまって。「これは大ネタ来た」と思って(笑)。SNSを使って「この会社がこんなことをしています」とアピールできるんですよね。こうすることで、コピーライトを守るというか、次の展開にしていく方法があるな、と思っています。

IMG_3356

 
⇒ コピー商品を買い占めて、自分たちの商品として売っていらっしゃいましたよね。こんな対応方法があるのかと、ブログを拝見して驚きました。
 
実は昔、フランク・ザッパが同じことをしたらしいんです。レコードの偽物がガンガン出た時に、自分で仕入れて再販したという話を聞いたことがあって。僕が集めたコピー商品は全て売り切りまして、フライングタイガーのほうでも商品の回収は完了しています。
 
今回の件は、”アーティスト明和電機”としては、とても面白いことなんです。もともと「魚コード」はアートとしてコンテンツを作ったものなので、量産して大衆に届けたいという思いがのっけからあって。それが、気付けば全世界で販売されているという(笑)。こんなにありがたいことはないんです。ただ、問題はそこに「明和電機」という名前が載っていないことと、売ったことに対する収入が無くて、「魚コード」に関わっているおもちゃ会社のキューブさんにも迷惑が掛かってしまうこと。だから最終的には保証金みたいな話になったんですが、面白くないな、と思ってしまって。
 
だるまとか招き猫とかって、みんなコピーしていて、パブリックドメインになってますよね。中国ではドラえもんがもうパブリックドメインみたいになっているけど(笑)。でも、いつかは本当にパブリックドメインになるかもしれない。長い目で考えると、「魚コード」の事件は色々面白いですね。
 
でも今回の件は「魚コード」だから主張が出来たんです。同じことを「オタマトーン」でやられると、たぶん難しくて。「魚コード」はもともと、オリジナルとなる彫刻作品を作っているんです。そういう芸術的なクリエイションは、作った瞬間に著作権が生まれるとベルヌ条約で定められています。「魚コード」はその条約に則ると、しっかり主張ができる。ただ、そこで守られるのは「コンテンツ」の権利なんです。「ツール」の著作権についてはまた別の考え方になっていて、ツールを作った瞬間に権利を主張してしまうと、普及しない。なので、特許や意匠といった方法を採っていて、それは申請しなければ権利が発生しないんです。「オタマトーン」は芸術的に作ったわけではないので、著作権としては弱い。だから戦うためには意匠登録をしたり、実用新案を出している必要があるんです。面白いなぁって思いますね。
 
⇒ 実際、オタマトーンのコピー商品が売られる問題が発生していますが、現在何かアクションは起こしているのでしょうか?
 
あのコピー商品は中国のショッピングサイト「タオバオ」で販売されています。実は一昨年、タオバオ主催の中国のイベントでライブをやっているんです。初音ミクと明和電機っていう対バンで(笑)。タオバオはコピー商品をガンガン売っていることで問題にもなっていて、取れるアクションとしては、タオバオの管理者に「コピー売ってますよ」と連絡を取ったりとか。あとはコメントが書き込めるので、偽物偽物と書きまくるとか(笑)。とにかく今は、どういう商品なのか手に入れるために、中国の友達に買ってもらっています。
 
⇒ 今後のアクションはブログで拝見します(笑)。様々な活動を行っている明和電機ですが、活動を通して、社長が世の中に伝えたいことは何かありますか?
 
僕は芸術がベースなので、自分の中のイメージを形にして、人に伝えているんですね。いろいろな演出をしていますが、結局はそこだけなんです。ディズニーランドを作っている時のディズニーさんの妄想力って、共感するところがあって。自分の中にある世界観を外に出して、一つの世界を創れるか、みたいな人生の費やし方をしたいですね。25年もやってると、いろいろ堆積してくるんですよ。それらをまとめて、どんな世界にしていくかなっていう感じですかね。
 
⇒ 例えば、今まで作ってきたモノを展示する博物館を開いたり、なんて構想もあるのでしょうか?
 
最後は自分の美術館を作りたいっていうのは、あります。芸術家って普通、自分が作ったものを売るんですけど、僕は自分が作ったものを全部持ってるんです。でも、美術館を作ったとして、誰がそれを維持するのか(笑)。それに、作品を残したりすると親族の間で骨肉の争いが始まるって、よくあるんですよ、芸術家って。だから最後は全部まとめてバーン!と爆発して終わるのもいいですね(笑)。

 

※「魚(な)コード」や「オタマトーン」…

「魚(な)コードUSB」
「家電製品にアニミズムの精神を」をコンセプトに明和電機が開発した、USB延長ケーブル。
2017年3月、大型雑貨店「フライングタイガー」にてコピー商品が販売されていることが発覚。
 
「オタマトーン」
明和電機が開発した、音符の形をした可愛らしい電子楽器。
日本おもちゃ大賞2010「ハイ・ターゲットトイ部門」にて「大賞」を受賞。
2018年2月、小型版の「オタマトーン メロディ」のコピー商品が、ショッピングサイト「タオバオ」にて販売されていることが発覚。


・コンサート情報

 
今年でデビュー25周年を迎える明和電機が、スペシャルな事業報告ショーを開催。
「明和電機事業報告ショー」と「明和電機25周年記念コンサート」の2本仕立てで25周年を盛大に祝います。ゲストに会長(土佐正道)、経理のヲノさん(ヲノサトル)が出演!

 
※好評につき、チケットは完売致しました。物販のみチケット不要で入場いただけます。

 

日時 2018年4月14日(土)

内容 ■第1部 「明和電機事業報告ショー2018」
開場 15:00 開演 15:30
※終了後サイン会あり
 
■第2部 「明和電機25周年記念コンサート」
開場 17:30 開演 18:00
※終了後サイン会、ファンクラブイベントあり

場所 スクエア荏原(東京都品川区荏原4-5-28)