日本の経済成長を支えた中小企業を摸した独特のスタイル。大ヒット商品「おたまトーン」をはじめとする、どことなく滑稽な「ナンセンスマシーン」たち。
昨年でデビュー25周年を迎えた「明和電機」は、音楽活動や舞台パフォーマンス、近年ではおもちゃの製作も手がけるアートユニットです。
2019年3月30日、明和電機は東京・秋葉原にある老舗の電気部品販売のビル「ラジオデパート」の2階に、初となる公式ショップ「明和電機 秋葉原店」をオープン。
ココシル編集部では去年も明和電機の”代表取締役社長”こと土佐 信道(とさ のぶみち)さんに、モノづくりに関するインタビューをさせていただきましたが、「明和電機 秋葉原店」のオープンにともない、再度お話をお伺いすることができました!
街が持っていた「多様性」を取り戻したい
⇒ 今回、秋葉原に新店舗を出すことになった経緯を教えていただけますか?
土佐 もともと秋葉原には大学時代から通っていました。当時の秋葉原はWindows97が発売されたあたりで、パソコンブームでしたね。僕はとにかくお金がなかったので、そこで部品を漁り、見つけたジャンクパーツを使ってアート作品を作るという活動をしていました。しかし90年代に入るとアニメショップ、アイドル、メイドカフェなどが増えはじめ、次第に「電気の街」というよりは「コンテンツの街」にシフトしていきました。
⇒ 通っていたお店がどんどん閉じていってしまったわけですね。
土佐 はい。その一方で、僕はアート作品をマスプロダクトに落とし込み、大量生産して売るということをずっとやってきましたので、恒久的なショップを作りたいという思いは持っていたんです。そうした思いの中、去年の11月に秋葉原の現状を目の当たりにして・・・明和電機のアトリエは武蔵小山にあるのですが、そこでも開発が進んでいて、古い街をどんどん潰してしまっているんですね。
多様性、面白さ、街が持っていた混沌とした部分。そういうものが一掃されてしまうと面白くないし、時代を刷新(アップデート)する方法は他にあるんじゃないかと思ったんです。そこで自分の中の色々なものが結びついて、「あ、ここに出せばいいじゃん」という明確なイメージにつながったのがキッカケですね。
ソーシャルの時代を経て「リアル」へ
⇒ 映画『ボヘミアン・ラプソディー』を観て感じましたが、今は古いコンテンツを掘り起こして、それに若い人たちが興味を持つという流れがありますね。今回、明和電機秋葉原店ができたことによって、秋葉原という街に昔の灯が点ってくれたらいいなと個人的にも感じています。
土佐 そうですね。世界中で明和電機はライブをやっていますが、どこに行っても面白がってもらえます。そこにはやはり、実際にモノを作って見せるという面白さがあるわけで、非常にアナログ的だと思います。手を動かしてモノを作る、物体が持っているエンターテインメントは日本人の得意とするところで、フィギュアもそうですが、世界中に広まっている茶道や華道なんかもそうですよね。
秋葉原はもともとそういう街だったんです。今はコンテンツ寄りになっていますが、どちらがいいというのではなく、お互いが存在する街であれば面白くなるんじゃないかと。
モノ(物体)のエンターテインメントをクリエイションする力が落ちているので何とか上げたいと思いますね。時代は変わっていますが、やはりモノのエンターテインメントを楽しむにはモノに触れるしかないし、そういう場所に行くしかない。今映画館やレコード屋に若い人たちが集まるというのは、そこにはSNSでは手に入らないコアなものがあるからですよね。それはある意味ソーシャル時代を通過したからこそ、もっとリアルに、手に触れることができるものを求めはじめたのかなと思います。
「明和電機」の仕事は“漁業”?!
⇒ お父様の経営していた電機部品メーカーから「明和電機」という名前を引き継いで、こうして新しく店舗を出すことになって・・・お父様も喜んでいられるのでしょうか(笑)。
土佐 どうですかね(笑)。やっていることは全く違いますが。開発をして、それをライブで見せて、というのが「明和電機」のメインの収入源でしたが、それは「漁業」ですね、感覚的に言うと。一発ネタを見つけて引っ張り上げられたら一年食えるっていう。そういう瞬発型のビジネスをずっとやってきました。それで、今回お店をやってみて思ったのは・・・終わりがない(笑)ずっとマラソンを走っている感じで。
⇒ 実店舗の経営はまた勝手が違うということですね。
土佐 開店してまだ二週間ですが、最初にクロールの泳ぎ方を覚えた時を思い出しますね。呼吸の仕方がわからないけど、とにかくバタバタ前に進んでいるというか。力の抜き方がわかってくると、お店を営みとして回せるようになるのかなと。それまでにはたぶん三年はかかるので、この一年はバタバタしながら、あらゆることを実験していくことになると思います。
⇒ 今後、国内のみならず海外への出店については考えられていますか?
土佐 考えていますね。中国の深圳(シンセン)に華強北(ファーチャンベイ)という、秋葉原をモデルにしたという電気部品街がありますが、そういうところにも出せたら面白いなと思っています。そういう街と「交換」して。向こうには向こうの面白いクリエイターたちがいるので、向こうにラジオスーパーみたいなものができて、交換できたら面白いかなと。
土佐社長にとって“平成”とは?“令和”とは?
⇒ 平成もそろそろ終わりですが、「平成」は土佐社長にとってどんな時代でしたか?
土佐 明和電機は昭和スタイルで活動していますが、活動期間は93年からなので、どっぷり平成なんですね。当時はバブルの余韻もありましたが、今はまさに「平ら」。「平ら」に「成って」いった時代だと思います。昔は歌謡曲でも「トップスター」がいたり、明確なピラミッド社会ができていました。また、映画『ダイ・ハード』に見られるように(超高層ビルを所有する日本大企業が登場)、当時は日本の資本がどんどん海外に進出していた時代でもありました。明和電機は一昔前のモノづくりに邁進していた中小企業のスタイルですが、それは当時のそういった風潮に対する皮肉、アンチテーゼという側面もあります。
スターの話に戻りますが、今は読者モデルのような、SNSやInstagramで身近な人たちが人気を博していますよね。横のネットワークは発達しているのですが、とにかくコミュニティを壊さないことを心がけて、そこから飛び出ないようにする。こういうフラットな感覚は昔はなかったと思いますね。
⇒ 令和の時代をどうしていきたいとお考えですか?
土佐 人工知能、クラウド・・・テクノロジーの発展はこの先も続くでしょう。しかし、本当に「デジタルでいいから全部削ぎ落としてしまえ」となるのかどうか。例えば僕は50〜60年代に流行したトランジスタラジオが好きで、ネットショップで買ったりしますが、本当に造形がしっかりしていて、工芸として素晴らしい。しかし、スマホはただの黒い画面なわけで、そういう面白いインターフェースはすっかり削ぎ落とされてしまっている。
しかし僕は、令和の時代に「揺り戻し」があるのではないかと思います。もう一度元に戻ろうという。例えば、楽器は身体性と切り離せませんよね。頭に電極をつけてピアノを演奏してもつまらない。デジタルガジェットで身体性を切り離してしまうと失われてしまうエンターテインメント性がある以上、新しいかたちで「揺り戻し」があるだろうと思っています。
⇒ 確かに、現代は「何かの量産型」が増えてきているような気がします。でも、そのことに不満を持つ一定数の人たちがいるということですよね。
土佐 よく言うんですが、ソーシャル・ネットワークは「そう仰るネットワーク」。つい周りを気にしてしまうんです。そこで慣れてしまうと「突き抜け方」がわからなくなってしまう。独創性は自分の中を掘り起こすことが必要で、自己完結しなければいけない。なんでもつながってしまう時代だからこそ、「情報のダイエット」が必要かもしれませんね。
先日、おもしろ工作ショップ「ラジオスーパー」の第二期出品者募集が締め切られました。門は誰にでも開かれていますが、選考基準で特に重点が置かれているのは「ラジカル(急進的)かどうか」。新たにどんな「ナンセンス」なマシーンが並ぶのか、楽しみです。
また、ゴールデンウィーク期間中にはジャンク市の開催を予定しているとのこと。フリマアプリで見ているだけではわからない、得体の知れない「現物」に出会うチャンス!「明和電機 秋葉原店」のさらなる展開に注目です。
明和電機 公式サイト:https://www.maywadenki.com/
明和電機 twitter 公式アカウント:https://twitter.com/MaywaDenki
昨年のインタビュー記事はこちら:https://home.akihabara.kokosil.net/ja/archives/11133